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「え……あ、はい」
ロイは小さく返事をし、やっとコートを脱いだ。鞄と共に足下に置き、彼が示したソファへと座る。
添えてもらっていた砂糖とミルクを自分の好みにコーヒーへと落とす時、寒さでか、緊張なのか、指先が震えていた。
マグカップを手に持った時、じんわりと染み込んでくる暖かさに、体の力が抜けた気がした。
「あ、あの!た、探偵さんなんですよね?」
勢い込んで聞くロイ。さっきまでの迷いなど無かったかのように。
「えぇ、そうですよ。依頼にいらして下さったんですか?」
柔らかな微笑みのまま、ザークはしっかりと返事を返す。
「えっと……はい。あのっそうなんですけど……」
先程の勢いはどこへやら。言い淀んで俯いてしまうロイに、難解な依頼かと思いながら、
「ここは、誰かに聞いていらして下さったんですか?」
少し違った質問をしてみる事にする。
広告を大々的に出している訳ではないザークの元に依頼にくる、というのは珍しいのだ。
「あ、えと。昨日、ギブソンさんという探偵さんから聞きました。他の探偵事務所とか……もちろん最初は警察に行きましたけど……取りあってもらえなくて……それで……」
なるほど、彼に聞いてきたのか。警察も駄目だったとなると、言い淀むのもわかる気がする、とザークは考える。
「それで迷ってらしたんですね。依頼を受けるかどうかは、話を聞いてからでないと私も答えられません。今私は何も依頼を受けてなく、暇なんですよ。話していただけますか?」
ニッコリと安心させるように微笑み、話しを促すザーク。
ロイは、確かに離さなければ何も始まらない、ただ単にコーヒーをご馳走になって終わってしまうだけだ、と気付き決心する。
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