第十章

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 アキラ・トウジョウの遺体が発見された。最悪な方法で。  発見したのは同じ大学に通う学生。ロイ・ルガスタ。  自分の携帯にロイ本人がかけてきて、それを知った。彼の涙声が、頭にこびりついてしまったように離れない。  何も、声をかけてあげられなかった。ただただ、茫然としていた。  今もまだ、切れた携帯を手に、ソファで呆けている。  わからない。わからないよ、アイリス。何が、したいの? 「いつでもいらっしゃい。歓迎するから。その代わり、私を殺す覚悟ができた時に、ね」  アイリスの言葉がよみがえる。  殺す?僕がアイリスを?たった一人の肉親を?  親に疎まれていた僕を、たまにだけど救ってくれていた姉を、僕が殺すの? 「ザーク」  優しい声と共に、ソファが揺れる。  香ばしいコーヒーの香り。  そういえば、電話が来たときから彼は傍から離れていた。 「電話、なんだった?」  携帯のかわりに、温かいカップを持たされる。  隣の温もりが、嬉しい。 「アキラ君の遺体が見付かったそうです。発見者はロイ君」  茫然としたまま、リグへと返す。  知らず知らずに固い口調が出るのは、冷静になろうと努力しているせいか。 「……そうか」
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