第十章

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「アジスタに、頼むか」  ポツリと俺は呟いた。  ザークはきっと、なんのことかわかったはずだ。主語はなかったけど。  俺はお前を守るためならなんでもできる。  だからもう、アイリスのことで悩むな。  アジスタに会いに行くかと、立ち上がりかけた俺をザークが制した。 「僕が、……僕が、アイリスを……終わりにします」  はっきりと、きっぱりと。静かにザークは言いきった。 「無理するな。無理することじゃない」  ザークの瞳の薄茶色の中の金が揺らめく。 「無理じゃない。僕を救ってくれていた姉を、僕はちゃんと救いたい」  静かな声が、ザークの決意を表していて。  止めても無駄なんだと、気付いた。  アイリスを救うのはもう死しかない。そう言ったのは俺だけど。それはたしかなことで。  ザークも感じ取ったから、だから姉を救うという表現をしたのだろう。  本来訪れるべきだった死を、アイリスは受けずに、闇の住人として長い年月を生きてきた。  狂う心を、必死につなぎ止めていたのだろう。  だから今、爆発している。  アイリスを、解放してやることが、救いになる。解放してやらなければ、アイリスはずっと暗い中を、狂いながら生き続けることになるのだ。  狂気にのまれる、闇の住人になるとは、そういうこと。  闇の世界にいるだけなら、問題はないんだ。狂気にのまれたことが、大きな問題。 「アイリスを、解放してやってくれ。俺が言うのは間違っているのかもしれないが。一歩間違えれば、俺も同じだったから」  ザークをそっと抱きしめる。  この子がいたから、俺は生きていられるんだと、痛感して。  アイリスに、ごめんと心の中で呟いた。  それでも、この子を手放せやしないから、ごめん。
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