第十一章

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 パタンと玄関の扉が閉まる音がした。  見送りはしなかった。ついて行きたくなる自分をきっと抑えられないだろうから。  カーテンの隙間から、丸い満月が下界を見下ろしているのが見えた。 「あら、ザーク来てくれたのね」  嬉しそうに姉は言った。  わかっているのに、自分が来た理由を。  姉自身が言ったではないか……。  なのに、何故、嬉しそうに迎え入れるのか。 「丁度、満月ね」  フフフと、姉は上機嫌だ。  大丈夫なんじゃないかと、錯覚させるほどに。  それでも、入ったこの部屋は、姉が残虐に一人の少年の命を奪った場所で。  血の臭いと、汚れはそのまま残っていた。 「あぁ、ココは駄目。ふさわしくないわ。私の部屋のほうが良いかしら。いいえ、そうね……屋上、かしら?」  姉は一人で呟いて、ついてきてとまた部屋を後にする。 「姉さん……」  静かに姉を呼んだ僕へと振り返り、姉は上機嫌な笑みをさらに深めた。 「久しぶりにそう呼んでくれるのね、ザーク」  僕は言うべき言葉があったはずなのに、何も言葉が出てこなくなってしまって。  どうしてですか?なんて今更な質問をしをうになって。
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