第十一章

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 ポツリと浮かぶ月を、じっと見ていた。  帰らなきゃ、リグが待ってる。  そう思うのに、ザークの足は動かなかった。  約束を、したのに……。 「ザークさん、でしたか」  聞き覚えのある、優しいテノール。 「……タチナ?」  静かに、屋上へと上がってきた人物は、ザークを見てホッと息を吐いた。  多分、強い力の波動を感じてここまで来たのだろう。  この場所は、光の中にいる彼にはふさわしくない。 「怪我をしてはいないようで、安心しました。さきの強い力は、ザークさんのものだったんですね」  ふうわりと、彼は微笑む。  前のように、ザークの心を癒すかのように。  怪我を、心配されてしまった。  確かに以前、怪我をしていたところを見られてはいたけれど。  まさか、心配をするなんて、僕は人外のモノなのに……。否、タチナはそれでも治癒をしてくれるほど、優しい人間なのだ。  誰のことであろうと、怪我をしていれば心配するのだろう。 「僕は、自分のことばっかりで、与えられることが当たり前で……なにも、なにもしてあげられなかった……」  タチナには、訳のわからない話しだろう。
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