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「ねぇ、ザークさん。自分はたった一人しかいないんです。もしも、だれか一人を愛してしまったら、その人にしか与えられなくなると、思いませんか?」
驚くほどに、その言葉は僕の中にすんなりと溶けていった。
あぁ、そうか、と。
「なんてまた、事情も知らないのにでしゃばりましたね。すみません」
タチナは律儀に頭まで下げて謝ってくるけど。謝ることなんてないんだ。
僕は、とても納得できたのだから。
また、歩き出せる気がしてきた。タチナには助けられてばかりだ。
「いいえ。あなたも誰かを愛してるんですね」
首を振って否定する。謝るなと。
「ええ。かけがえのない人がいます」
タチナは静かに肯定した。
そうか、と思う。この人がとても優しいのは、そのかけがえのない人がいるからなんだろう、と。
「僕にも、僕にもかけがえのない人がいる。あ、人じゃないけど」
自然と、固い口調なんて忘れ去って。そんな言葉を発していた。
僕も、リグも人ではないのだけど。
でも、かけがえのない、というのは同じで。リグがいなきゃ僕はなにもできない子供だ。
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