第十一章

8/12

74人が本棚に入れています
本棚に追加
/168ページ
「ねぇ、ザークさん。自分はたった一人しかいないんです。もしも、だれか一人を愛してしまったら、その人にしか与えられなくなると、思いませんか?」  驚くほどに、その言葉は僕の中にすんなりと溶けていった。  あぁ、そうか、と。 「なんてまた、事情も知らないのにでしゃばりましたね。すみません」  タチナは律儀に頭まで下げて謝ってくるけど。謝ることなんてないんだ。  僕は、とても納得できたのだから。  また、歩き出せる気がしてきた。タチナには助けられてばかりだ。 「いいえ。あなたも誰かを愛してるんですね」  首を振って否定する。謝るなと。 「ええ。かけがえのない人がいます」  タチナは静かに肯定した。  そうか、と思う。この人がとても優しいのは、そのかけがえのない人がいるからなんだろう、と。 「僕にも、僕にもかけがえのない人がいる。あ、人じゃないけど」  自然と、固い口調なんて忘れ去って。そんな言葉を発していた。  僕も、リグも人ではないのだけど。  でも、かけがえのない、というのは同じで。リグがいなきゃ僕はなにもできない子供だ。
/168ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加