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否、リグがいても子供なんだけど。年月ばかりが経ちすぎて、長い時間を生きてたけど、子供のままで。
でも、このままじゃ、きっとこの優しい人にも、何もできないで終わってしまう。
「良かった」
そっと吐き出された安堵の息に、僕は不思議に思ってタチナを見返す。
綺麗な瞳はくもり一つない。
「笑ってくれたから」
そっと言われた言葉に、既視感を覚える。
あぁ、そう言えば、前にも僕が笑ったことで彼は安堵していた。
「心配ばかりかけてるね、僕は」
こんな僕にもこんなにも優しいなんて。最初は八つ当たりまでしたのに。
「タチナは優しすぎる」
人として、生きていくのに苦労するんじゃないか、と思ってしまうほど。
タチナは笑った。綺麗な優しい笑顔を見せてくれた。
「僕はただ単に、自分勝手に動いているだけですよ。なにも事情を知らないのに、あなたの方が生きているのに、知ったような口をきいている」
そんなことはないと思う。少なくとも、僕は救われてる。
「僕はまた、与えられるだけになりたくないから、タチナ、あなたに恩返しがしたい」
やんわりと笑っていた彼は、少し驚いたように目を見開いて、それから困ったような顔をした。
困らせて、しまったのか。
長く生きていても、人の心なんて全くわからないんだ。
わかろうと、してこなかったから。
「お言葉だけで。僕明日、日本に帰るんです」
あぁ、と溜め息がもれてしまった。
これだけしてもらったのに、救ってもらったのに、僕はまたなにも返せないのか?
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