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クスクスと笑いながら、紙とボールペンをザークは渡す。
紙には、氏名、住所、電話番号など、必要と思われるものを書く欄があった。それに書き込み始めるロイを見て、ザークはふっと時計に目をやる。
「おや、もう十二時過ぎてしまいましたか」
そのザークの呟きに「えっ?!」という顔をして、時計を見たロイは、
「あ、あの、僕講義があるので、これで失礼します。あの、よろしくお願いします」
と書き終わった用紙をザークに渡し、すっくと立ち上がり、頭を下げる。ザークは、
「はい、わかりました」
と頷いて見せた。
鞄とコートを持って玄関へと向かうロイに続き、ザークも玄関先まで見送りに出る。
ロイは、エレベーターの前でもう一ぺこり、と頭を下げると、開いた扉の中へと姿を消す。
その姿を見送り、部屋へと戻ったザークは、朝のように窓から下を見下ろす。
しばらくして出て来たロイのオーラは、朝のような陰りはなかった。依頼を受けてくれる探偵が現れ、少し心がはれたのだろう。若干まだくもりはあるが、自殺云々を気にしてしまう程ではない。
「さて、どうしたものかな……。リグ、君の仕業なのかい?」
下を見ていた目を一転させ、空を見上げて呟く。
虚空に消えていく、小さな呟きは、少しだけ空気を震わせて霧散した。
雪雲はいつの間にはいなくなり、冬の太陽の優しい日差しが戻っていた。
夜になれば、月や星が綺麗に見えるだろう。
満月は、あと少しでやってくる――
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