第一章

14/14
74人が本棚に入れています
本棚に追加
/168ページ
 クスクスと笑いながら、紙とボールペンをザークは渡す。  紙には、氏名、住所、電話番号など、必要と思われるものを書く欄があった。それに書き込み始めるロイを見て、ザークはふっと時計に目をやる。 「おや、もう十二時過ぎてしまいましたか」  そのザークの呟きに「えっ?!」という顔をして、時計を見たロイは、 「あ、あの、僕講義があるので、これで失礼します。あの、よろしくお願いします」  と書き終わった用紙をザークに渡し、すっくと立ち上がり、頭を下げる。ザークは、 「はい、わかりました」  と頷いて見せた。  鞄とコートを持って玄関へと向かうロイに続き、ザークも玄関先まで見送りに出る。  ロイは、エレベーターの前でもう一ぺこり、と頭を下げると、開いた扉の中へと姿を消す。  その姿を見送り、部屋へと戻ったザークは、朝のように窓から下を見下ろす。  しばらくして出て来たロイのオーラは、朝のような陰りはなかった。依頼を受けてくれる探偵が現れ、少し心がはれたのだろう。若干まだくもりはあるが、自殺云々を気にしてしまう程ではない。 「さて、どうしたものかな……。リグ、君の仕業なのかい?」  下を見ていた目を一転させ、空を見上げて呟く。  虚空に消えていく、小さな呟きは、少しだけ空気を震わせて霧散した。  雪雲はいつの間にはいなくなり、冬の太陽の優しい日差しが戻っていた。  夜になれば、月や星が綺麗に見えるだろう。  満月は、あと少しでやってくる――
/168ページ

最初のコメントを投稿しよう!