第一章

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第一章

 新聞の見出しは、ここ最近変わらない。  注目されているのは、ある一つの事件である。『吸血鬼の惨殺!またもや起こった非人間的殺人!』  綴られている記事は、ここ連日起こっている、少年を対象とする事件がまたもや起こってしまった事を伝えている。今までと同様、体中の血が抜かれていたのだが、外傷はあまりなく、その外傷もさながら吸血鬼のように、首筋に穴が二つ開いていつだけだ、というのだ。今現在警察は、夜遅くの少年少女の外出禁止を呼び掛けると共に、少年の身元調査をしているようだ。  色々と、今まで会った事件も含めて、詳しく書かれていたが、毎日読んでいる者にとっての真新しい情報は、昨夜一人の少年が死亡した、という事以外に載っていなかった。  高層ビルが立ち並ぶ、ビジネス街から車で約三十分ほどのとあるマンションの一室。部屋の中のリビングルームと思われる、三人掛けのソファが二つと、ガラステーブルのある場所。そのソファの一つの真ん中に座っている主は、二十代半ば頃の青年。寝巻にしていたであろう、柔らかそうな布地を纏っていた。  読んでいた新聞を折り目に沿って折りたたみ、目の前にあるガラステーブルへと放り投げるようにして置いた。一つ、溜め息を吐いて。 「一体、何人を殺す気なんだ……」  呟かれた言葉は、事件の犯人、街の人々の間では「吸血鬼」と呼ばれるモノに向かってのようだ。 「止める気のない君も同罪だよ」  何処からか低く、嫌みを含んだ声が聞こえた気がした。  苦々しく溜め息を吐く。俯いた先、テーブルの上の新聞の「吸血鬼」の文字。 「その通りだな。私は関わるのを避けている……」  呟きは、その新聞に対してか。  先程の声の主に対してか……。  それとも、犯人に対してか――。  そっと立ち上がった青年の体が、朝日を受けて影を床に映し出した。  背が高く、均整のとれた体格をしている。整った綺麗な顔立ちをしていて、周りは美しい黒髪が縁取っている。「美人」という単語が似合ってしまう青年だ。【華】があるのだ。街中にいれば、全ての人が注目してしまうだろう。それこそ、ただ普通に立っているだけで。  かっこいいなぁ、ということばより、すっげー美人、という言葉が、彼を見た人々の口から出てしまうだろうことは、簡単に想像がつく。
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