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彼の名を、アイリザークときいう。近しい物は略称でザークと呼ぶ。
私立探偵をしているザークには、通勤や会社での縛られる時間というものがない。依頼がなければ、一日中でも暇なのである。
ザークは、のんびりとした足取りで、窓辺へと歩いて行く。
窓からは、五年程前に出来た大きな建物が見える。そしてその建物へと向かう、十代後半から二十代前半の若者たちの姿。つまり、大学と、そこに通う学生たちだ。
ザークが窓から外を覗くと、現在通学途中の学生を見ることができた。ただ、見るとはなしに学生たちを眺めていたザークの瞳が、ある一人の少年に目を止めた。その少年の纏っているオーラが、とても暗く曇っていたのだ。
オーラというのは、人の性格・体調がよく現れるものである。つまり、曇っていると言う事は、体調がよろしくないという証拠でもあるのだ。
それをザークは読み取ることができる。ザークが幼い頃から幾つか持っている不思議な力の一つである。
「体調からだけではないですね。心理的なものからが大きく見える。自殺なんて考えなければ良いのですが……」
一人ごち、その少年が門を潜り、他の学生と共に大学へと入って行くのを見送る。
暫く厳しい顔をして考え込んでいたザークは、
「気になったからといって、私が気にしてもしょうがないですね」
と自分に苦笑して、のんびりと窓辺を離れ、朝食の用意に取り掛かった。
*
「よ、ロイ。おはよ。何だ?朝から暗い顔して。寝不足か?」
一時限目の教室に入り、席を見付けて座った瞬間、後ろの席にすでに座っていた顔見知りに声をかけられた。
「えっ、うーん。そんな様なもんだよ。気にしないで」
いつもなら、軽口を言い合う相手でも、そんな気分にはなれず、答えた後すぐに前を向いてしまう。声をかけてきた奴は「そうか」とだけ言って、変に追究してこようとしなかった。こういう友人はありがたい。
この、ロイと呼ばれた少年は、ザークが見て、気にしていた少年だ。
小柄で、明るい顔をしていれば、可愛いと人目を引くだろう顔立ちをしている。
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