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講義が始まり、ザワついていた教室内は、教授が黒板に文字を書くチョークの音と、学生たちが必死にノートを取る音。そして時折教授が説明する声が聞こえるだけとなった。
そんな中、ロイは一人だけノートも取らずにボーっとしていた。瞳は黒板を見てはいるものの、眺めているといった感じて、書いてある言葉は頭には入っていないだろう。今のロイにとってそれは、意味をなさない単語の羅列でしななかったのだ。教授の説明する声も同じである。
「ロイ……ロイってば……おい、こら、ロイ・ルガスタ!」
後ろからフルネームで名前を呼ばれて、ハッとして振り向いたロイの目に、授業前声をかけてきた友人の呆れた顔が映る。
「あのなぁ、もう一限終わったぞ。お前二限ないはずだろ?」
言われて前を見ると、あれだけギッシリと書かれていた黒板は既に綺麗に消されている。そして、教授の姿は教室内から消えてしまっていた。
「……」
何の反応も見せないロイに、
「ホイ」
と軽い調子で渡されるノート。
「え……」
何なのか分からずに友人を見たままでいるロイに、ニッと笑った友人は、
「さっきの授業、お前ノート取ってなかっただろう。三限までにうつして返してくれりゃ良いからさ。持ってけよ。あと、早く出ねぇと二限目始まるぜ」
ノートをロイに突き出したまま、そう言ってくれた。
後ろの席にいた彼には、ロイがボーっとしていたのは丸わかりだったようだ。
「ありがと」
と言って、ロイはようやく少しだけ笑顔を見せた。
ありがたく友人からノートを借りて、出ている真っ白なノートや、使っていない筆記用具を片付けて、ロイは足早に教室を出て行った。
「とりあえず、ノートうつそう。図書室に行こうかな。その後に考えれば良いや。考え込んで一時間半終わるとは思ってもみなかったなぁ……」
ブツブツと独り言を言いながら、足早に階段を下り、図書室へと向かう。
「へぇー。アイツすごく几帳面じゃん」
図書室の空いている椅子に座り、ノートを開いた瞬間、感嘆と共にまたもや出てしまった独り言。
注訳等、黒板に書かれていた文章だけではないだろうのに、とても見やすいノートだったのだ。
コピーではなく、しっかりとノートをうつすロイもまた、几帳面かもしれない。
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