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「十一時ですか……」
読んでいた本から顔を上げ、時計を見る。
大学では、二時限目の真っ最中といった所。
ザークは手に持っていた本をテーブルの上に置く。
ふと、玄関の向こうに、人の気配を感じた。このマンションは、防音の行き届いたしっかりした造りをしている。人の気配など、普通は感じるものではないのだが。ザークが持つ不思議な力故に感じ取れるものである。
「おや、珍しい時間のお客様ですね」
広い間取りを取るこのマンションには、一つの階に玄関は三つ。ザークの部屋は五階の右端で、五階には今のところザークしか住人がいない。この五階でエレベーターを止めるのは、ザーク自身と、ザークへの依頼者。又は、このマンションを見に来た住居人になるかもしれない人間。ただし、将来住居人になる可能性のある人が部屋を見に来るとするならば、管理会社の人間も一緒であろう。ザークが感じたのは一人だけの気配なので、ザークへの依頼者と考えて間違いない。
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