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そこで文章は終っていた。 カフェを営む理由。 それは本を滅多に読まない私にはまったく想像がつかない理由であった。 しかしこの店主は自らのことを「まあまあな活字中毒者」と言っているが、これだけの蔵書とこれだけの文章を書ける人が「まあまあ」と言うのはいかがなものであろうか。 この店主が「まあまあな活字中毒者」であるのなら、世の中から「活字中毒」という言葉は消えてしまうのではないかと思う。 そんなことを考えながら店主が集めたという本棚に私は目を向け背表紙の文字を追っていた。 程なくして「お待たせいたしました」というかけ声と共に注文品のコーヒーとトーストが私のテーブルに置いて去っていった。 私は焼き色強めに注文した好物の耳付トーストを早速手に取ろうする瞬間思わず固まった。 何故なら私の目の前には「まあまあなトースト」という茶色の表表紙の本が一冊置いてあったからである。 いやしかしよく見るまでもなく、それは半分にカットされた焼き色強めのトースト。 ただトーストの表面には「まあまあなトースト」という横文字の大きな焼印が押されていたのであった。 【完】
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