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「蒼衣ー、放課後どっか行かね」
SHRが終わり、クラスメイトたちが椅子を引く音にまぎれて頭上から降ってきたのは、そんな凪都の声だった。
見ると凪都は、ぺたんこのスクールバッグを肩にかけていた。すでに帰る準備が万全のようだ。今週は凪都のいる班が掃除当番のはずだが、彼が掃除用具を手にしているところなんて見たことがない。
「え、なんだよ凪都。今日は彼女とじゃないんだ」
「今日部活あんだってさ。発表会近いからサボれないって」
「へえ。こういうとき部活入ってれば便利だよな。いっしょに帰れるし」
「まあでもいまからはダルい」
「だよな」
「んで、どうなの」
「ああ悪い。俺、これから用事あって。付き合えないわ」
そう言うと凪都は怪訝そうな顔をした。
「あ、そ。お前さ、部活に入ってるわけでもないのに、放課後なにしてんの?」
温度のない声で突かれて、思わず、どきっと心臓が跳ねた。
「え?」
「たまにあんじゃんそういう、用事の日」
「い、家の手伝いだよ。ほら、兄貴が店やってるだろ? それで服作んの、俺も手伝ったりとか、いろいろ」
「ふーん。兄貴想いなのね。いいけど」
ぼっちさみしーなんてこぼしておきながら、凪都は颯爽と教室から出て行った。当番のないクラスメイトたちも、部活に向かったり下校したりとさまざまにいなくなっていく。その流れには日立さんの姿もあった。ほかの女子生徒よりほんの少し華奢な体躯が過ぎていく。
腕時計を見ると、時刻はまだ3時20分を過ぎたところだった。この教室はどの部活や委員会にも使われないし、居残って勉強するなんていう熱心な生徒はごくまれにしかいない。いたとしても自習室が別に用意されているし、図書室という快適な環境もある。
だから放課後にこの教室を使う生徒はいない。
掃除が終わってしばらくすればおそらく、人ひとりいなくなる。俺はそれまで適当な場所をふらついて時間を潰すことにした。
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