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「おかーさん どうしたの?」
幼い男の子が住んでいるのは5畳ほどの畳の部屋が1つ、その中に小さな流し台が申し訳なさそうにポツリと置いてあるだけのボロアパート。
部屋に家具と呼べるものは一切無く、布団… というよりも一枚のぼろ布が土壁に沿うように敷かれていた。
「どこかいたいの?」
布団の上に足を放り出し背中を土壁にもたれ掛けていた男の子は入り口付近で泣き崩れている母親の心配をしたが、どんなに声をかけても母親は応えてはくれない。
不安になった男の子は母親のそばに行くために腕の力を使って畳の上を這った。
「おかーさん?」
男の子は母親の腕に優しくふれるが母親は下を向いたまま、「ごめんね」と何度も何度も謝るだけ。
怖くなった男の子は掴んだ手にぎゅーっと力がこもる。
母親は男の子の手を払いのけ立ち上がると、振り返る事も男の子を見る事も躊躇し立ち止まる事も無く何も言わずに出て行った。
男の子は何が起きたのか理解出来ないまま、閉ざされてしまった扉をずっと見続けていた。
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