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とても美味しそうな匂いに男の子は目を覚ました。
おかあさんがかえってきたんだ!
「おかーさん! おかあさん…」
嬉しすぎる男の子ははしゃぐ声で呼びながら部屋を見渡したが… カーテンの隙間から薄っすらと入ってくる陽の光で明るくなった部屋に母親の姿は無かった。
どこからか漂う匂いのせいで、男の子はお腹を空かせていた。
昨日の昼から何も食べていないのに、冷蔵庫すらないこの部屋のどこにも食べ物は見当たらなかった。
男の子は上半身を壁にあずけ、グーグーと鳴り止まないお腹と不安に怯えていた。
陽が暮れると布団に潜り込み朝になると上半身を起こし、靴音に一喜一憂し外から聞こえてくる音に少しだけ不安が消され、そしてまた眠りにつく。
それでも三日も過ぎると起きることが出来なくなり、一日中布団の中で過ごす。
その頃には空腹で考える事も涙も声も出なくなった。
さらに数日が経ち指一本動かす事も出来なくなると、最後の眠りに付こうとしていた男の子の耳にかすかだが自分の名を呼ぶ声が届いた…。
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