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一時間ほど真琴の手を握り続けたが、目を覚ました時の為にと着替えを取りに病院を後にした。
搬送されたときに着ていた服は汚物で汚れていたため全て処分してもらったし、それに味気ない患者着を真琴に着させたくなかった。
電車で10分、そこから20分ほど歩きボロアパートに着くと、保護されてから数時間しか経っていないアパートの周りには数人の警官とパトカーが数台、それにテレビ局の取材が何局か撮影をし、それを取り巻くように周囲には人だかりができていた。
「何かあったの?」
「子供が殺されたらしいよ?」
「一家心中だって聞いたけど。」
「怖いわねぇ。」
などとある事無いこと騒いでいる。
人が増えるにつれて真実は大きく湾曲されていき、野次馬の一言一言に腹を立てながらも節子は何も言えずアパートの階段を昇った。
二階まで上がりきると一番奥の部屋の開けっ放しにされたドアの前に松野武という若い刑事が立っていた。
節子は部屋に近づくにつれて重たくなっていく足を一歩一歩踏みしめるように前に出していった。
部屋に近付くにつれ鼻をつく悪臭が漂ってきたが、節子は顔色一つ変える事は無かったしむしろ変えてはいけないと思っていた。
松野「申し訳ありませんが、これ以上先はご遠慮下さい。」
ドアから離れた松野に二つ手前の部屋の前で声をかけられた節子は足を止めると持っていたカバンの持ち手を胸元でギュッと両手で握り絞め真っ直ぐ松野の目を見た。
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