2.時間の止まった世界 -グラデーションの旅路-

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「あんたがそう言うなら――当ててやろうじゃないか」 囁くように、一刻は呟いた。 幼い頃に歩き暮らした、薄暗いオレンジ色の地帯。 母といっしょにいくつも通り過ぎた、あの色に染まった町の一つ。 その中の、どこかにある。 母が「決して行ってはいけない」と言った、あの場所が。 『だめ、一刻』 ふと何気なく、そこへ向かおうとした一刻の腕を、母は強く掴んで引き戻した。 『行くな。あそこは、近づいちゃいけない場所だから。あそこにだけは、何があっても、絶対に行っちゃだめ。――いい?』 あのときの母の目を、一刻は、今でもまざまざと思い出すことができる。 オレンジに染まった景色の中で、一刻を睨みつけた、あの人の瞳の色を。 あのときを境にして、一刻の思い出の中の情景は、次第にオレンジの色を薄め、明るく、鮮やかに彩られていった。 「あそこに――何が、あるんだろう」 母が、遠ざけようとしたもの。遠ざかろうとしたもの。 それがなんなのか、知りたかった。 あの場所にたどり着くことができたら、そこにはきっと、答えに繋がる何かがある。 「そう考えて……いいんだよな?」 うつむいて、一刻は、不安の混じった笑みを浮かべた。 「だって、そうでもなきゃ、お手上げだ。さすがに、まったくのノーヒントで、あんなこと言ったわけじゃないよな? ……母さん」 母は、そこまで人の悪い人物ではなかったと、信じたい。 ただ――それ以前に、そもそもの大きな問題として、だ。 たった一度、ずっと昔に訪れただけのあの場所を、今になって自分一人で探し当てることなど、本当にできるのだろうか。 「ま……やるだけ、やってみるしかない」 小さく溜め息をついたあと、一刻は、再び太陽に背を向け、歩き出した。 地面を踏み鳴らして歩くのは、もう疲れた。 だから、粒チョコレート入りの紙筒をもう片方の手に持ち替えて、それを振りながら歩く。 カシャカシャ、カシャ、カシャ、カシャ。 喉か足が休まるまでは、こうしてチョコレートを振っていよう。image=506713488.jpg
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