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一刻は、ほどよく開いているガラスの壁の隙間から、コンビニの店内へと入った。
こういう店の入口にあるガラスの壁が、本当は自動ドアという名前であることは知っていたが、一刻にとって、その名称はどうもピンとこない。
自動で動くものなんて、この世界には、何一つありはしないのだから。
――自分の心臓や、ほかいくつかの臓器を除いては。
「フライドチキン……あのとき、すごく食べたかったのに。このコンビニには、一つもなかったんだよな」
それで仕方なく、代わりにアメリカンドッグを食べたのだ。
それが思いのほか、すごくおいしかった。
母といっしょに食べたアメリカンドッグ。
あのときから、アメリカンドッグは、一刻の新たな好物となった。
「また、食べたいなあ。……でも、このコンビニには、もう」
レジ横にあるケースの中には、フライドチキンだけでなく、アメリカンドッグも一つもない。
以前寄ったとき、ケースの中に一本だけあった最後のアメリカンドッグを、母といっしょに食べてしまったから。
当然、もう残っているわけがないのだ。
一刻はアメリカンドッグの代わりに、今度はハッシュドポテトを一枚、ケースから取り出した。
それから、ポテトはとりあえずケースの前に浮かべておいて、一通り店内を回り、必要なものを物色する。
ちょうど手持ちの食料が尽きようとしていた矢先だった。
良いタイミングで店があったものだ。
ハッシュドポテト、ペットボトルのミネラルウォーター、パン、おにぎり、紙筒入りの粒チョコレート。――それらをビニール袋に入れて、一刻は店を出た。
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