1.時間の止まった世界 -パウダーブルーの空-

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『母さん……寒くないの?』 『いや……。地面のタイル、ぬくいんだよ。広場は……日当たり、いいからね』 『でも、そこじゃあ、何個も人の影があるじゃないか。もっと、直接日が当たるところにまで、運ぼうか?』 『いや……。この眺めが面白いから。しばらく……このままで、いいよ……』 荒い息をつきながら、とぎれとぎれに母は言った。 通行人の影が被さっているというのに、母は、眩しげにその目を細めていた。 一刻は、ドラッグストアから取ってきた頭痛薬を、一口大の水の塊に埋め込んで、母の口へと近づけた。 母は、すがるようにそれを睨んでから、口に入れ、ゆっくりと飲み込んだ。 そのあと、少しむせていた。 薬を飲んでも、母の頭痛は一向に治まらなかった。 けれど、それ以上、一刻にはどうすることもできなかった。 周りには、たくさんの人たちがいる。 目と鼻の先には、大きな病院の建物が見える。 でも、いくら助けを求めたところで、その呼びかけに応える者は誰もいない。 この世界では、母と一刻を除いたすべてのものが、残らず時を止めているのだから。 『……かずとき』 ぽつりと呼びかけた、その小さな声に、違和感があった。 普段の母とは明らかに違う、不明瞭な喋り方だった。 呂律が回らなくなっていたのだ。
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