1.時間の止まった世界 -パウダーブルーの空-

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世界の果てまで続く静寂。 それを自分の口元で破って、一刻は、囁くように母へと語りかけた。 『俺さ……昔から、あんたが寝てる姿を見るたび、怖かった。 静かに眠ってて、ぴくりとも動かないあんたを見るたび、あんたも、時間の止まったほかの人たちと、同じようになっちゃったんじゃないかって。 こっち側じゃない、〈向こうの時間の世界〉に、行っちゃったんじゃないかって。 何百回も……何千回も……数えきれないくらい、そんな不安に怯えてきたんだ。 ……でも』 一刻は、長く伸びた母の髪の毛をいくらか、指先でつまみ上げた。 指を離すと、その髪の毛は空中に留まることなく、はらりと元通り地面に落ちた。 それは、彼女が確かに一刻と同じ時間を過ごした「仲間」であり、今尚(なお)そうであり続ける存在だという証だった。 一刻は、小さく微笑んだ。 『結局、あんたの言ってたとおりだった。あんたは、世界の時を止めることはできても、時を止めたこの世界を抜け出す力は、持っちゃいなかった』 一刻は、しばらく母を見つめたあと、立ち上がった。 そして、母から渡された懐中時計を、母がいつもそうしていたように、自分の首に掛けた。 『この時計の針が、動くところ……俺も、見てみたかったな』 呟いて、一刻は、その場でぐるりと一回転し、その間に、周りの景色をあらん限り見回した。 人々を。 道路の車を。 ビルの群れを。 色とりどりの看板を。 雲のある空を。 影が落ちた地面を。 母が動かなくなっても、何も変わることのなかった、その世界を。 image=506336950.jpg
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