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「姫、主人公の衣装さ制服にしようよ。」
咄嗟に返事ができなかった。
今、なんて言ったの?と頭の中で言葉を繰り返し、ようやくその意味を飲み込んだ。
「…は?」
無愛想な返事しかできなかった。
それもそうだろう。なにせ今目の前で私にこう提案してきたクラスメートの女子たちは、一向に大道具を手伝うことのない役者の中の一部だからだ。
『何ふざけたことを言ってるの?』
そう思わずにはいられなかった。
自分たちはさっさと帰ったり、好き勝手なことしてるのに、文句は一人前にいうわけ?
そう心の中で悪態付かずにはいられなかった。
ここで返事を間違えたなら、この子達のことだ、私の悪口を言って、いじめのターゲットにでもされるだろう。
でも、
「変更致しません。」
主役の子は昨日はともかくいつも最後まで残って手伝いをしてくれている。そのこの衣装をましてや制服にしようよ、なんて。自分たちは好きなように着飾るというのにか。主役の衣装は、ほかの役者の勝手な希望で購入した衣装によって減っていった残り少ない予算費のことを考慮して、本来の衣装を変更したものだった。
それなのに。
自分たちは勝手なことばかりをするというのに。
クラスのために動く人は絞り出した考えですら否定されなければならないのか。
-怒りで目の前が赤く染まったような気がした。
「は?」
「変更は致しません。」
「なんで。」
「なんでも。」
私を睨みつける彼女たち。そして、それを冷たく見つめる私。両者一歩も譲らぬその様子にクラスのざわめきが凍りついたかのように無くなった。
しかし、長引くかと思われたソレは案外あっさり終わった。
文化委員の杉野くんが私のところにやって来て彼女たちに向かって言ったのだ。
「文句あるなら、手伝いしてから言えよ。」
それはそれは正論を。
彼女たちはそれを聞いて醜く顔を歪めると自分たちの席へと戻っていった。
そして、
「ありがとう、杉野くん。」
「姫の言う通り、変更なんかしなくていい。」
「うん。」
杉野くんは私の頭に手を乗せてポンポンと軽く優しく叩くと
「今度何かあったらその時はまた言えよ?
-守ってやるから」
と私に笑顔を向けて自分の席に帰っていった。
あぁこんな王子のように助けれ、笑いかけられ、どうして好きにならないといえようか。
先ほどまでの尖った気持ちが消えて、胸の奥が熱くなった。
そう、私は彼に-堕ちてしまった。
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