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そう決意して、迎えた鈴蘭祭本番。
役者全員が楽しんで演じているのが遠くで見ていてもわかった。劇が終わった時、クラスの皆が「楽しかった」と口にしていた。そんな皆の様子を見て私たち、いつも居残りしていた4人はひっそりと笑いあい、肩を抱き合った。
そして、結果は。
-見事入賞。
1位の最優秀賞は逃したが6クラス中2位の優秀賞と、快挙を得た。
喜ぶクラスの皆の姿が目に映る。
最初のあのひどさを知っているからこそ賞をとることなんて夢のまた夢だと思っていた。協力的なクラスが賞をすべてもっていってしまうと、そう考えていた。しかし、それは違っていた。最後の最後で、クラス全員がやる気を出し勝ち取った賞。でも、忘れてはいけない。この賞をとることが出来たのは、皆のやる気を引き出してくれたのは…杉野くんだ。
杉野くんが、諦めずに呼びかけを続けてくれたからこそ、私たちはこの賞を手に入れた。
そう私たちの劇は、入賞したのだ。紛れもない、彼のおかげで。
そして、私は海音に言い放った言葉を思い出した。
『告白する!』
入賞したら、杉野くんに告白すると。
しかし、実際に行動に移すとなると難しいもので。別に彼女にならなくても、こうやって彼を想うだけで幸せな気持ちになれるなら、告白などする必要ないのではないか、とそう思った。そうやって、自分の言葉にすら背を向けようとした、その時。
「お疲れ。」
杉野くんが私の頭に手を乗せてきた。そのまま軽く跳ねるように、いつもの調子で撫でていく。
「杉野くん、お疲れ様です。」
かけられた労いの言葉に私も同じ労いの言葉で返すと、杉野くんは私の顔を見て、
「泣いていいよ。頑張ったもんな。」
と優しく笑いかけた。
「え…?」
その言葉に目をぱちくりとさせた私に、彼は
「我慢してるの、分かるよ?でも、いい事だから泣いて喜んでも誰も責めないって。」
とまるで小さい子をあやす様に言い、私の頬を軽くなでた。
その手の温もりに、私の目からは一気に涙が溢れ出た。彼の言う通り、我慢していたんだ。
だって、あんな誰も手を貸してくれないような悲惨な状況から、こんな眩しい雰囲気に変わるなんて。
だから、だから、賞を貰えたことがとても信じられなくて、嬉しくて。
泣きながら彼に向かってそう言葉にする。
そんな私の言葉を彼は「頑張ってたからな。」と優しく私の頭を撫でながら聞いてくれていた。
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