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今日は花火大会の日。
幸が私の家に迎えにきてくれるというから、私は準備をして待っていた。
ぴんぽーん
そんな中、待っていた人が訪れた音が聞こえた。
しかし、久しぶりの花火大会が楽しみでそわそわと落ち着かなかった私は、約束の時間にチャイムが鳴ってもなかなか出ることが出来なかった。そんな私を見かねて弟がチャイムに出てくれた。
「ねーちゃーん、幸兄きたよー」
「うん」
弟の声を聞いて、私は幸の元へと向かった。
「よ」
「よ」
私が玄関へ行くと、幸はいつものように、見慣れた笑顔でそう声をかけてくる。そのいつもの光景を、どうしようもなく嬉しく感じている私がいた。
「行くか」
「うん」
そういう幸の少し後ろを歩き出す私。
花火大会の時、たまに幸は甚平を着てくる。
今日の幸も甚平を着ていた。でも、今日見る甚平は初めて見る。紺色の布地に波紋が描かれたシンプルなものだったが、幸によく似合っていた。
きっと、去年彼女と花火大会に行くときに買ったのだろう。あの時の幸はとても楽しそうだったから。きっとわくわくしながらこの甚平を選んだのだろう。そう考えた後、何故だか少し胸が苦しくなった。けれど、それと同時に楽しそうに甚平を選ぶ幸が容易に思い浮かんで微笑ましくなった。幸はお洒落には疎い方だから、きっと王子にでも頼んで一緒に選んだのだろう。
そんなことを考えながら、「今日もまずは焼きトウモロコシだなー。で、その後に唐揚げ買ってー」とこの後の予定を楽しそうに話す幸の後ろ姿を私は眺めていた。
格好いいな。
見慣れた幸の後ろ姿だけど、私の胸は何故か少し煩かった。
「そういえば咲、今日は...」
そんな時、急に幸がそう言いながら私の方に振り返ったから、思わず驚いてしまった。
「...いや、なんでもないや。そんなことよりそんな後ろ歩くなよ。早く歩かないと混むぞ」
そう言いながら私は急かす幸。私はその言葉に従って足を早めた。
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