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「教えてない。誰かに教えたのは、幸の方でしょ?」
だから私は、思わずそう返してしまった。そんな私の言葉を聞いて、さらに幸の顔が不機嫌なものになっていく。
「なんで俺が誰かにここを教えるんだよ」
「だって私、去年ここの場所に彼女と行っていいよって」
私がそう言うと、一瞬幸の顔が悲しい表情に変わった気がした。そして、少し沈黙が広がった。その沈黙のあと、幸が口を開いた。
「...咲は、ここに俺以外の奴がいてもなんとも思わないかもしれないけど、俺はそんなの、嫌なんだよ」
ぽつぽつと幸がそう話し始めた。
「去年咲が、咲以外の誰かにもこの場所教えていいって言ってきたとき、その時は、確かにそうしようかなって思った。でも、いざ花火大会になった時、この場所で花火を見る咲の横顔思い出したら、美咲をここに誘えなくなったんだよ」
「...私に遠慮しなくてもい「遠慮じゃない」
きっと幸は優しいから、私の気持ちを考えてくれたんだろう。けど、私のせいで幸の自由を奪いたくなかったから、私はそう答えようとしたが、幸の言葉に遮られた。
「ここに、咲以外のやつがいるのが嫌だったんだ。咲との思い出を、他のやつに邪魔されたくなかったんだよ」
そう言いながら幸の顔はどんどん下に向いて行った。そしてその顔は、いつもの笑顔とは違って、いまにも泣き出しそうなものだった。
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