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「幸」
そんな幸に、私はそう声をかける。
それでも幸は顔を上げない。
「幸」
「...なに?」
もう一度声をかけると、幸がしぶしぶ顔をあげた。
「嬉しい」
「え?」
私がそういうと、幸と目があった。
「私の特別な場所、秘密にしてくれてありがとう」
そして私の口から思わずそう本音が漏れていた。
まさか、ここがまだ私の特別な場所のままだなんて、思いもしなかったから。もう取り戻せないと、思い出になってしまったと思っていたのに、まだここは、私の特別な場所のままだった。
本当だったら、他にかけるべき言葉があると思うけど、どうしても私はそう、幸に声をかけたかった。
「だ、だから、そういう顔すんのやめろって」
すると、幸がそう言いながら私の頭に軽く手を当て、そのまま私の顔を下に向かせた。
けど、幸の声色から察するに、もう不機嫌ではなくなったのがわかったから、取り敢えず良かったのかなと思った。
ひゅーるるる
そんなことをしていると、花火が打ち上がる音が聞こえてきた。
「あ」
「あ」
お互い花火の方へ顔を向ける。
どーん
その時は上がった花火は、丸くて大きな、カラフルな花火だった。
「花火、始まったな。見るか」
「うん」
花火が始まってからは、私達はお互いなにも言わず、黙って花火を見ていた。けど私は、時々幸の方も見ていた。花火を見る幸の横顔は、いつも通りとても楽しそうだった。良かった、そう思った瞬間、突然私の方を向いた幸と目が合ってしまった。
お互い予期せぬことに驚いたが、幸が何故だか嬉しそうに照れながら笑ったのにつられて、私も同じように笑い返した。
なんだか心がふわふわしていて、まるで夢のような時間だった。最後の花火が打ち上がり、ぱらぱらと火花が夜空にとかからまで、あっという間だった。
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