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「さ、かえるか」
「うん」
花火が終わり、少し余韻に浸った後、幸がそう言いながら立ち上がった。私も幸につられそう答え立ち上がる。
帰り道の幸はいつも通りだった。
あの花火が変わっててすごかった。あとあの丸くて大きい花火も色が綺麗で良かった。など、興奮気味に話しながら夜道を歩いた。
「そういえばさ、この甚平、高橋に選んでもらったんだよ。高橋センスあるだろ?」
話の途中で、今日幸が着ていた甚平の話になった。私の思ってた通り、王子に選んでもらったもの、らしい。
「うん、よく似合ってる。かっこいい」
予想が的中したのが嬉しくて、笑いながらそう答えると、幸の歩きが急に止まった。幸の後ろを歩いていた私は、急には止まれず、幸の背中に軽くぶつかってしまった。
「幸...?」
急に止まった幸が心配で、横から幸の顔を覗き込もうとしたのだが、それに気づいた幸がまた再び歩き出した。
「そ、そういえば、昨日高橋と甚平買いに行った時、高橋も甚平買ったんだぜ?高橋も今日の花火見に着てたのかもなー」
そして再び、少し口早に話を始める幸。
「昨日?」
「ああ、前着てた甚平大分古かったからさ、そろそろ新しいの買おうかなって思って。俺だけじゃ決められないから、それで高橋も誘ったんだよ」
昨日。去年彼女のために買ったんじゃないんだ。そんな些細なことだったが、なぜか嬉しかった。
「せっかく新しい甚平買うなら、かっこいいって思ってもらえるのがいいからさ」
そう少し照れたように話す幸は、とても機嫌が良さそうだった。
「というか寒くなってきたな。早くかえろうぜ」
「うん」
「そういえば、咲ちょっと歩くの後ろすぎないか?せっかく一緒にいるのに、それじゃ話にくいだろ?」
そう言いながら幸は立ち止まり、私に向って手招きをする。
「後ろからでも幸の声聞こえるよ?」
「ばか、俺が咲の声ききにくいの」
なかなか幸の方へ行こうとしない私にしびれを切らし、そういうと幸が私の方へ歩いてきて、隣にたった。
「さ、いくぞ」
「うん」
隣に立つと、折角の幸の甚平姿を見られなくなっちゃうな。
その事に少し残念に思った。でも、隣を歩くと楽しそうに話す幸の表情が見えやすくなって、もっと早くこうすればよかったと、そう思っている自分がいた。
そのあと、楽しそうに話す幸の隣で、私も一緒に笑いながら家へと帰った。
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