Prologue

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 祈るだけでは足りないことくらい、わかっていた。  地面の上のなにかを踏むたびにガタガタ揺れる台の上で。  からだの内側からあふれだしてくるふるえを、懸命にこらえようとした。  考えろ。  脳に指令を送るが、頭のなかは恐怖でいっぱいだ。恐怖に支配されている。  ぼくは、自分がもといた世界のことを思った。  東京を思い、アメリカを思った。  わずかな学校生活のことや、これまでに経験した事件のことを思った。  この世界に召喚されて以来、はじめてのことだった。  角を曲がり、長いまっすぐの廊下を抜け、角を曲がり……。  にごった空気のなか、ロウソクのにおいの合間をぬって、ただよってくる臭気。  天井から、ケモノの死体がつるされていた。血が、したたり落ちている。  ぼくは吐き気をこらえた。  やがてぼくをのせた台は、そんなに広くない、がらんとした部屋の中央でとまった。  台を押していた人物は、ぼくを台の上に残したまま、部屋を出ていく。  状況を認識しようとした。  自分をとらえたのは、連続殺人犯か?  ここは、その隠れ家なのか?  女性たちを、じっくり時間をかけて切りきざんだ、拷問部屋なのか?  だれかが、部屋のなかに入ってきた。  さきほどの人物とはちがう。     
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