Act 1-2:死体が四つ

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 細部を見ると、ロープのようなものでしばられたらしきアザが見受けられた。 「犯行中はしばられていたとしても、最初につかまったときは? 突然襲われて抵抗できないまま気を失った……不意打ちか、顔見知りの犯行か……」 「この刺し傷」  Qが壁に近づいた。 「出血量に差がある。傷のいくつかは、死後のもののようだ」 「どの傷ですか?」 「顔面がとくに多いな。顔の傷のほとんどは、あきらかに、死後につけられている」 「死体への損傷行為、ですか?」 「そのようだな」 「どうしてでしょう」 「なにか隠したいものが被害者のからだにあったか──」 「歯形とか?」 「コーフンして被害者を噛むヤツは多いからな」 「これらの刺し傷……一つ一つが正確な攻撃ですが、どこか感情的な刺しかたです。傷の深さにムラがある。アンサブの性的嗜好かも」 「殺すことそのものより、刺すことを楽しんでいる?」 「ありえます」 「犯罪に不慣れな世界だ」  Qがアゴに手を添えて言った。 「たしかに、あまり凝った捜査かく乱はおこなわれていないとみて、いいだろうな。歯科記録との照合、なんてのもないわけだし」 「歯形から個人を特定する手法……なるほどなのだ」  ピュグマが、しきりに感心してみせる。  ぼくは、写真の一枚一枚を、くまなく観察する。     
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