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「顔面もかなり刺されていますが……それこそ識別ができないくらい。歯でないなら、被害者の身元確認はどうやって?」
「腕に古い傷があったのだ。そこから割り出した」
「遺体はどこにあった?」
Qが問うと、画像が切り替わった。
「宿屋からすこし西に離れた、林のなかなのだ」
「殺害地点ではないな。これは死体遺棄地点だ」
Qがすぐ言った。ぼくも同意見だ。
「林のなかとはいえ、街道に近い。いたぶるのが目的なら、被害者の口をふさいでいなかった可能性も。だとしたら、悲鳴もかなりのものでしょう。しばってじっくり楽しむには、もうすこし時間のとれる、個人的でプライベートな空間を要したはずです」
「楽しむとか、プライベートとか……あまり愉快ではないのだ」
ピュグマが、すこし怒った様子で言う。それは、人として当然のことだ。
「ぼくもそう思います。でも、いま重要なのは、犯人の気持ちなんです」
「まわりの土を見ろ」
Qが指さした。
「すこしも乱れてない。通りがかりに、ただ捨てたらしい。とくべつ、隠すつもりもないようだ」
「単純に、発見まで間を置きたかったんでしょう。検死という技術がない以上、死亡推定時刻は割り出せないわけですし。発見が遅れれば遅れるほど、容疑者は増え、われらがアンサブ自身は、存在を薄めることができます」
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