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星団
どこから迷い込んだのか、ギンガムチェックのテーブルクロスに芥子(けし)粒ほどの虫が留まっている。季節に取り残されたみたいに、クリームソーダの置かれる場所に。
ロイヤルミルクティの薄膜を掬ってから、香苗が言葉を重ねていく。
「ええっとね、だからね……そういうことなのよ。いまのあなたには理解できないかもしれないけれど」
ききわけのない子供を諭すかんじの彼女に対し、笠井幸司は腕組みをほどいて、肘をついた。
口をつけていないアイスコーヒーのグラスが、夏の名残りで汗をかいている。
「もう会えないってわけじゃないのよ……たまたま今日がその幼児教室にぶつかっちゃってね、しかたないのよ。和哉にだってスケジュールがあるんだから」
店内のエアコンは冷房にも暖房にも設定されることなく、昼下がりの生温い空気がとぐろを巻いている。
体験学習・幼児教室……笠井には、初めて耳にする言葉が底意地の悪い生き物に思え、口にした飲み物は溶けた氷のせいで、ひどく気の抜けた味がした。
「ちゃんとストローを使いなさいよ」
かつての夫をささやき声でたしなめてから、香苗は自分のティーカップを傾ける。
陽射しに遠慮がちな間接照明が、天体図の描かれた天井をほのかに照らしていた。
小言のときに伏し目がちになる癖は、夫婦のときと変わらない。けれども、今日の彼女は、アイロンの効いた白のブラウスに麻のジャケットを重ね、一ヵ月前とはまるで別人になっている。シルバーのネックレスに下げた薄紫の翡翠(ひすい)のブローチも、笠井が初めて見るものだ。
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