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「自分が出れば、叔母上との争いは避けられないと判っているんだ。一時の混乱がやっと収まった、なのに正当な王位継承者である父が世に出れば、まだ国が乱れる。叔母上を担ぎ上げたい者もいれば、正統にこだわる者もいる。きっと内輪揉めが始まるだろう。こんな小国でそんな事をいつまでもしていたら、周りの国にあっという間に食われてしまう」
「戦国時代でもあるまいし、どっかに植民地化でもされるとでも?」
「それぞれ利害や思惑があるんだ。それらで代理戦争のような事態が起こればセレツィアは終わる」
小さな国で、大きな産業もないこの国では死活問題なのかも知れない。日本が平和すぎて判らないだけかな……。
「それでも」
更に淋しげな色を滲ませて呟く。
「俺も来月にはイギリスへの留学が決まってる。ひとたび国を離れれば、もう戻ることはないだろう。せめてその前に、一目父に会って話したいが、それも叶わないそうにない」
「どうしてそんな、留学なんか……?」
「叔母上の意向に決まってるだろう」
シルヴァンはつまらなそうに言った。
「俺に拒否権はない。母も療養と称して国境近くの城に軟禁されてる。もう、叔母上の独壇場だ。でも」
小さな溜息を吐いて言う。
「父の言う事はもっともだ。どんな独裁者でも、民と国の為にと働くのなら、それは立派な君主だ。叔母上はともかく、ハルルートもお人好しなところはあるが、この小国ならいい王になれるだろう」
「……あなたは、国の為には働かないの?」
「俺の仕事は、この国を離れる事だろうな。実質の独裁者の叔母上の心の安寧の為に」
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