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鼻歌交じりに歩み去る背を見送ってから、エレメイは小さな声で言った。
「……どうやらナンパのようですが」
「え? ええ、はい……あの、今の言葉は何処の……?」
英語でもフランス語でもなかったような。
「イタリア語です、可愛いと言ってました」
そうか、それで旅行客と誤魔化した……?
***
夜、恵里佳の部屋を訪ねる。
「お風呂行きましょ」
入るなりぐいぐい背中を押されて、バスルームへ連れ込まれた。
「盗聴器の有無は宮殿の人が調べてるの、一応ないとは言われてる。信用しないのは嫌だけど……さすがにバスルームにはないと信じたいわ」
お湯が溜められていて、浴室内は湯気が充満していた。
「入りましょ」
え、カムフラージュじゃないの?
恵里佳は目の前でドレスを脱いでいく、私も仕方なくカットソーとガウチョパンツを脱ぐ。
二人で向かい合わせに湯船に浸かった。
「渚沙、何があったの? あなたが席を立ってから、エレメイがイライラしてたわ」
「それが……」
ティモシーに聞いた事を、小さな声で話した。
「殺、人?」
私は頷く。
「多分エレメイだろうって。ねえ? もしその件にマルグテ夫人も関わっていたとしたら、暴いて欲しくない?」
恵里佳は首を横に振った。
「ユルリッシュ殿下が殺されたなら、それを隠しておくほうがおかしいわ」
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