【それは突然動き出す】

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「あなたが尽力してくれたと聞きました、本当にありがとう」 「いえ、私は何も……」 「何を言う」 シルヴァンが頭を撫でながら言った。 「渚沙がいなかったら、父はここにはいなかった。俺も大人しくイギリスへ行っていただろう。全てを変えてくれた、ありがとう」 そう言って抱き締めてくれる。恵里佳がニヤニヤと笑っているのが見えて、とびきり恥ずかしい……っ。 *** 肺に異物が入った事で、3日は入院して欲しいと言われたけれど、恵里佳の結婚式には出たいと我儘を言って、外出許可をもらって参列した。 「あーっ、綺麗だった!」 脳裏に祭壇の前の恵里佳とハルルートの姿を思い出す、本当に綺麗だった、それよりも幸せそうで、嬉しいやら、羨ましいやら。 宮殿の与えられた部屋に戻り、伸びをする。 今頃晩餐会だ、でも私は病院に戻る都合で乾杯だけで席を外した。 「いろいろあったけど、あの二人には関係ないよね!?」 私は部屋に送ると付いてきたシルヴァンを振り返って言った。 シルヴァンは微笑む。 「ああ。きっといい夫婦になる」 ドアを後ろ手に締めたシルヴァンが苦笑する。 「なんか変な感じだ、ドアから入るとドキドキするもんだな」 「普通、窓からの方がドキドキすると思うけど?」     
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