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二人して吹き出した、だってそうだ、ドアからシルヴァンが入るの初めてだ。
衣装も、舞踏会で見たより豪華な服でいつもと違う。厚手のビロードに金糸銀糸とガラスのビーズで刺繍が施されてる。
これが本来の彼の姿なんだ。
気がつくと見つめあっていた、それに気づくと恥ずかしくなって、背を向ける。
「き、着替えるから、出てって……」
そういや、そもそもなんでシルヴァンは付いてきたんだろう? 指定されていた席も遠かったのに、私が会場を出たら付いてきてた……。
「もう少しそのままで」
「え?」
「とても綺麗だ」
「う、うん……」
和服が、かな。確かに上等な品らしい、式に着なさいと指定された、総絞りの振袖だ。
「あの、でも、私、病院に戻らないと……」
「後で送る」
送る? 王子自ら? その疑問を口に乗せようとした時、抱き締められた。
「し、シルヴァン……っ!」
「シヴァでいい」
「し、シヴァ?」
「親しい者は皆そう呼ぶ」
インドの神様の名前だ……そんなどうでもいい事を思いながら、抱き締められていた。
「……渚沙」
「うん?」
「日本に、帰るのか?」
「うん、戴冠式見るつもりだったけど、とりあえずなくなったし」
エタン殿下の戴冠式は、まだずっと後になるらしい。
「観光したいけど、入院の方を優先しろって恵里佳がうるさいんだよなあ」
「ここに、残る気はないか」
「え!?」
予想外の言葉に、思いの外声が大きくなった。
「嫌か?」
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