金のライオン

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「……」 そう言ったきり黙ってしまった雷太を紅がどこか胡乱げな目でちらりと見遣った。 「で、どうでした?黒兎さんは」 「あぁ……可愛かった……」 「え……」 紅の持つ狼の耳がピンと伸び、次の作業に取り掛かろうとしていた手が一瞬止まる。 それに気付いた雷太はハッとした表情で顔を上げた。 何か疑われている。 「あ、いや、違う!可愛いというのはその、外見的なものだ。マスコット的可愛さというかなんというか。決して邪な目で見ているわけではない」 「へぇ」 紅がさも胡散臭いと言わんばかりに目を細めて雷太を見ている。 一体自分は雪をどうしたいのだろう。 雪がそんなに有名人だとは知らなかったが、あの愛らしさでは仕方ないとすら思える。 まさかほんの少しの時間雪と接しただけで、こんなにも頭の中が雪で埋め尽くされる日がこようとは。 「ただその、肉食組と草食組の一部生徒が対立しているのは事実だし、黒兎がそんなに目立つ生徒だとしたら今後その抗争に巻き込まれないとも限らない。だから……、うーん……」 黙って聞いていた紅が横で大きな溜息を吐いた。 「だったら草食組生徒会に掛け合って、黒兎さんに護衛をつけろと提案でもしてみますか?」 対立している生徒たちのグループを監視することはあれど、通常であればたった一人の生徒に見張りをつけるようなことはしないはずだ。 それを受け入れてくれるだろうか。 いやしかし。 「そうだな。ダメ元で掛け合ってみるか」 「え。マジで提案するんですか」 紅が鋭い目を丸くして驚いている。 しかし雷太はその身を以て、そうしなければならない何かが雪から発せられていたのを肌で感じたのである。 「何かが起きてからでは遅いからな。黒兎が肉食組の棟に迷い込んで来たと、さっき話しただろう。正確にはこっちの生徒達に追い掛けられてきたんだ。俺が黒兎を見付けたときには廊下の隅で怯え、震えていた」 「そうだったんですか。それなら話しは別ですね。何か対策を提案してもいいかもしれませんね。では次の生徒会会議までに黒兎さんの資料も作っておきますね」 「それはやらなくていい。俺が説明する」 「はい、わかりました」 雷太はふっと威圧のオーラを身に纏い金の髪をかき上げた。 金の髪も耳も、絶対王者の象徴だ。 びりびりと肌を刺すような雷太のオーラを感じて紅は体をふるっと震わせた。
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