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暫くはお互い無言だった。
九条さんの頭はあいも変わらず私の肩に乗って
見ている限りだとその体勢を崩そうとする気配もない。
「…あの、肩、」退けてください。
そう言いたかったのに
上を向いた顔が意外と近くて
思わず顔を背けた。
近いわ!
「…玲。」
「な、なんですか。」
「こっち向けよ。」
さっきまで真面目トークだったのに
今は若干揶揄いが含まれている。
それは何を意味するのか、少なからず想像がついた。
「…か、帰ります!」
もう22:30を過ぎた。
明日も仕事だし、帰ってやりたいことも色々ある。
もたれかかる身体を退かそうとすると
大きな手がそれを妨害した。
「まだ、だめ。」
「でも、明日の資料作りしないと、」
口から出た出まかせを九条さんは
信じてくれたらしい。
分かった、手を渋々離した彼は、
最後に「ひとつだけ、」と付け加えた。
「ひとつだけ聞ききたい。」
「…なんですか?」
ーーーチッ、チッ、チッ………
時計の秒針の音だけが響き渡る空間。
少し間を置いた後、九条さんは徐に口を開いた。
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