溺れる熱

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「…玲、」 初めから不思議だった。 この人の腕の中はいつも私を懐柔させる。 公園で過去を知った時も、ソファーで一緒に眠った夜も。 私はこの人に抱きしめられるとなぜか安心してしまうんだ。 「……したい、」 甘く艶やかな目が覗き込み微睡む視界に映し出される。その貌は酷く欲情して、目から色気を出す人なんてこの世に存在するんだと初めて知った。 「欲しい、」 その目と勝負する気なんて更々無い私は彼に背を向けて視界からその姿を消した。 「…玲、」 仔犬が親犬を探し求めるような鼻から通る甘く切ない声。同時に彼は耳を食み、首の裏や肩に唇を押し当ててご機嫌を取ろうとする。 「…仕事あるから、」 最もらしい言い訳をして次第に熱を帯びる躰を鎮める。すでに3:00を回っていることを告げ「おやすみ」と言った。それでも、我儘な甘えん坊は聞く耳を持たないらしい。 「…今我慢すると、昼間会社で襲いそう。」 「最近、玲の姿見るだけで欲しくなる。」 「玲のせいで抑制できない。」 ……どうして私のせいなの。 なんて思いながら腰に押し当てられる熱に反応する躰。 逃げようと身を捩るもこんな抵抗は無駄だと分かっている。
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