溺れる熱

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「お先に失礼します。」 仕事が終わり逃げるようにオフィスを出た私は結局九条さんに捕まった。エレベーターを待っていると「おつかれ」と真後ろに立ったのが彼だった。 「…お疲れ様です。」 恐ろしいぐらいの綺麗な笑顔を向けられて有無も言わさずエレベーターは地下に進む。1階で降りていく人達に紛れて降りようとしても繋がれた手は簡単に逃がしてくれなかった。 「…乗って。」 そしてなぜか彼はご立腹だ。 私はそのご機嫌が拗れたわけを伺いつつ助手席に乗り込んだ。 シートベルトを締めながらムスッとした横顔をチラ見する。彼はフロントガラスをまっすぐ見つめたままで、道中一度もこちらを見ることはなかった。 九条さんは当たり前のようにマンションまで送ってくれた。車は地下駐車場に入り、まるでここの住人のごとくエレベーターに乗る。 「?!」 玄関で靴を脱いでいた時だった。身体がふわりと浮き、その弾みで鞄が音を立てて落ちた。 「く、九条さんっ?!」 中に入っているPCは大丈夫だろうか?なんて気になり始めたのは全てコトが済んだ後で。 「ちょっ?!」 リビングを通り過ぎた彼は躊躇うことなく寝室に向かった。
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