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「……おかえり。」
玄関を開けるや否や壁にもたれながら腕を組んで待っていた男に身体が跳ね飛んだ。
「ただいま、」の言葉は喉の奥に引っ込み代わりに不自然な音が喉から漏れた。
「あ、ご飯、」
この期に及んで壱の話題に触れられたくない私は九条さんの横を通り過ぎてリビングに向かう。
「玲、」
バタバタと準備を始めた私の動きを止めるように九条さんは背後から抱きしめた。
私は大人しく捕まるもさっきの出来事がリフレインして正直それどころじゃなかった。
壱とキスするなんて地球がひっくり返ってもないと思っていたのに。
明日からどうすればいいのかと思うと気が気でなかった。
「…あいつは、誰?玲の何?」
耳元で囁く声は抑制されてはいるが、疑いも怒りも含むような低く冷たい。
わざとらしく耳朶を食みながら九条さんは首筋に顔を埋めた。
「俺の居ない間に浮気か?」
「違う!壱は大学が同じでサークルもゼミも一緒で、その、」
「気に入らない。」
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