26102人が本棚に入れています
本棚に追加
/1549ページ
【ご馳走さま。行ってくる。梓】
朝の光が差し込むリビングのテーブルに貼られた付箋には綺麗な文字が記されていた。
男性で文字が綺麗な人ってとても目を惹くけど、九条さんの字は癖のない“お手本”になりそうな文字だった。
「…はーい。」
その付箋をペリッと剥がしながら冷蔵庫に貼り付けた。ゴミ箱に捨てようか迷ったけど捨てられないのは、今ここに彼が居ないから、だろう。
いつ帰ったのかすら分からなくて、
いつ眠ったのかも知らない。
寝室には入って来なかった。
もしかすると寝ないで仕事に行ったのかもしれない。私はまだ眠い頭を必死に起こしてお湯を沸かした。
…もやっとするのはどうしてだろう?
壱にキスされたから?
逆恨みされる理由がしょうもないから?
それを山崎さんに隠されたから?
九条さんが何も言わずに帰ったから?
分からない。
だけどこの胸の靄はどうしたら消えるのだろう。
無理矢理にでも理由を付けたい私は都合のいい理由
を探しながら朝食の準備を始めた。
最初のコメントを投稿しよう!