愛しい人

31/35
26099人が本棚に入れています
本棚に追加
/1549ページ
耳を通り抜ける無機質な機械音 冬の風に混じって聞こえる通話終了の報せ 「……切られちゃった、」 ははっ、と乾いた笑いが 暗くて静かな路地に響き渡った 持っていた携帯が掌から滑りおちて、 カシャンと地面に伏せ返る 「……自業自得、…か。」 九条さんを傷つけて ロバートを傷つけて 私はどれだけ誰かを傷つければすむのだろう 「……最低、」 好き、と言う前に拒絶されて 子どもみたいに縋って駄々を捏ねて困らせて 「馬鹿梓」 それでも弱い私は彼のせいにする いったいどれだけ彼を困らせれば気が済むんだと頭の隅で突っつかれるのを躱して だけどもう日付はとっくに超えてるから待てなくても仕方ないんだ、と 約束を破ったのは私なんだから仕方ない、と 諦めに似たような感情が湧き出て だけど、そう分かっていても納得できなくて 鬱蒼とした靄が私を取り囲み包み込んだ ヴーヴー、と再び携帯が鳴り響く 地面に伏せた携帯を拾いあげ 画面表示に映る名前を見て涙がこみ上がる 「……なんで、」 言葉とは裏腹に胸が震える 唇を噛み締めて、私はその画面をタップした 『…玲、どこ?』 「………っヴ、」 『玲が待ってて。俺が迎えにいく。』
/1549ページ

最初のコメントを投稿しよう!