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指定された曲がり角に佇む一人の男性の影が見えた。壁にもたれているらしいそれがこちらに気づく。
……っ、
その姿を確認した途端、目の前が滲んでこぼれそうになるものを必死で堪えた。
「……走らなくても、」
そんな彼は息を切らして肩を揺らす私を見て眉を下げて微笑んで。
「……ぇ、ここっ、」
ここは大通りを走る車が入り乱れる大きな交差点
地下鉄の出入り口が四方八方にあり、飲食店もあるせいかこの時間にもかかわらず、沢山の人が楽しげに歩いているのに
「……あずっ、」
「黙って」
九条さんは黙れと私をキツく抱きしめると私の顔を肩に押し付けて
この瞬間を待ちわびていたように熱く長い溜息を吐き出した。
ずっと探していたものだった。
この香りもこの熱もあの日からずっと私は探し続けていた。
無謀なことだと分かっていた。
無駄なことだと何度も言い聞かせた。
それでもこの香りに包まれて眠る方法を考えて、少しでも彼を感じられるようにと試行錯誤して
「……く、苦し、い、」
泣きながら眠った日々を思い出す
彼を探して、落胆して、
それでも諦めきれなかった夜を何度過ごしただろう
「…梓、」
「…うん、」
「……苦しい、」
この腕も
この圧力も
全部私が求めていたものだった
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