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ーーーー中目黒まで、
大通りを走るタクシーを難なく捕まえた九条さんは、私を後部座席に押し込むと、運転手に行き先を告げた。
その行き先を聞いて後から乗り込む男の顔を凝視する。
私の家、だと思っていた。
だけど九条さんが告げた行き先は彼の自宅で
思い切り「え?」と顔に出しているはずなのに、澄ました顔をした彼はそれに関して説明も何もない。
それどころか行き先を告げると窓の外に視線をやり、私との距離を少しあけた。
さっきまでの甘い抱擁はなんだったのかと疑いたくなるほど彼の態度が違う。
窓際に肘を付き、身体半分捻って、その視線は勿論窓の外にやって。
ポケットに突っ込まれた手を無理矢理出し抜く勇気もなく、私と彼の間には彼の鞄が置かれている。
子どもじみた発想かもしれないけど
“ここから入ってくるな”と
線引きされた気がして。
膝の上に置いた手をぎゅっ、と握りしめる。
手を伸ばせば届く距離なのに
触れそうで触れられないその距離が
ひどくもどかしくて、
とてつもなく遠くに感じた
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