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「……玲は?なんかないの?」
いちいち不機嫌になるこの男はきっといくつになってもこのままなんだと思う。
まるで言いたいことそのまま顔に出す彼は初めの頃に比べ大分表情が豊かになった。そして、柔らかくもなった。こんなにも素直な人だなんて知らなかったから。
「なんかって、」
ここで九条さんがいつものように言葉にするのは容易いこと。
だけど彼はそれをせずに待っているんだ。
たとえこれが冗談だと分かっていても彼の場合まだ不安なのかもしれない。
「(…私は梓の傍にいるよ?)」
私は九条さんのコートの袖をクイッとつまんで彼の耳元でそっと呟いた。
声を大にして言えないからこれで許してほしい。
「ん。」
九条さんは照れくさそうに、だけど嬉しそうに顔を崩してくれた。
そして私の肩に手を回して抱き寄せるとおでこに不意打ちのキスをした。
「~~っ!」
九条さんから飛び退くようにして触れらた部分に手を置いて口をパクパクする私。
「ゲ。」
「あはは。」
「あーあ。」
そんな場面をまさか見られていたなんて、更に羞恥心が煽られる。
「ここは日本だぞー。」
「九条さんのキャラって。」
「新種の珍獣だな。」
三人の呆れた声は九条さんに伝わらないらしい。
恥ずかしげもなく寧ろ見せつけるように九条さんは私の手を取って歩き始めた。
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