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「…あず、待っ、」
「もう無理。」
九条さんの家に着いたのはほんの3秒前。視界の端でゆっくりと扉が閉まっていくのをスローモーションで見ていた。
『今日も泊まるだろ?』
九条さんは当たり前のように言う。
だけど、服も化粧品も何も持ち合わせてない私はその答えを出すのに一瞬躊躇った。
それを瞬時に察知した彼はここぞとばかりに仔犬モードを武器して甘えた瞳で私の顔を覗き込んで。
『…一緒に居たい。玲は…違う?』
今になって気づいたこと。
この男は根本的に狡い。
こんな風に見つめられて、「違う?」なんて聞かれたら頷くことなんてできない。
それに私の躰も現金なもので。
甘い瞳の奥に見え隠れしている仄かな熱
それに気づいた時に一瞬でカァーーッと熱くなってしまった。
彼に抱かれたい、と思うはしたなさ
だけど、
そんな風に躾けたのはどこの誰でもなくこの人で。
流されるように九条さん家に帰ってきて玄関に一歩踏み入れるや最後。
ドアが締め切らないうちに身体の自由を奪われてしまった。
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