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ポツリと溢れた声は消え入りそうだった。まるでそのことを考えたくない、と言っているようにも聞こえた。
「……私も梓の言葉鵜呑みにして調べなかった。それに、本当に嫌なら多分なんとかしてたと思うよ?」
今だから言えること。
本当に関わりたくなかったらきっと仕事も受けていない。
拒絶する方法はたくさんあったのに、私はそれをしなかった。
「それに助けた人が生きてたってだけで嬉しかったから気分が良かったの。」
癖のある黒い髪に指を通す。よしよし、と頭を撫でると九条さんの顔がゆっくりと上がった。
「ごめん。」
「いいよ。おかげでこうしていられるから。」
九条さんが頑張ってくれたから、私たちは今こうして一緒に居られるんだ。
遠回りしたけどこれで良かったと思うから。
胸元に頬をすり寄せると鎖骨から漂うボディーソープの香りにうっとりとしてしまう。
九条さん家に置いてあるのは私が愛用している柑橘系のボディーソープ。彼もそれを気に入って同じものを買った。
同じ匂いがするって思うと改めて気恥ずかしくなる。そんな擽ったさに身を捩りそうになりながら、同じように抱きしめてくれる彼の体温を感じて幸せに浸った。
「……玲、もうひとつ、聞いてほしいことがある。」
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