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はらはら、と溢れる大粒の涙。それを九条さんの手がそっと受け止めてくれる。
「……っ、ぐ、」
言葉にならなくて、噛み締めた口の奥から変なうめき声が聞こえた。そのことを可笑しそうに笑っている彼にぎゅう、と抱きつく。
「玲、返事は?」
答えは分かってるくせに急かす男
耳元で囁く声は甘くて優しい
私はきっと一生この男に振り回されるんだと思う。
だけどそんなこと気にならないぐらい彼が好きで。
そんな人生も悪くないって思うんだ。
「……ぅ、うん、うん。」
ただ首を縦に降って何度も頷いた。
身体中に九条さんの匂いをいっぱい吸い込んで、それ以外の言葉を知らない子どもみたいに抱きついた。
「よかった。“うん”って言ってくれて。」
はぁ~…っと安堵の息が耳元で聞こえた。その声は心底安心したような、気の抜けた声で。
「梓、」
「ん?」
こんな嬉しいサプライズをしてくれた彼にちゃんと言葉を返してあげたい。
抱きしめていた身体を離して涙でくしゃくしゃの顔のまま向き直って。
「不束者ですが、よろしくおねがいします。」
丁寧に頭を下げると頭上から嬉しそうに「こちらこそ、」と声がした。
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