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「じゃあ、これ嵌めて。」
寂しそうに箱の中で煌めくもうひとつの指環。それを手に取ると九条さんは左手を差し出した。
「え?左?」
私は右なのに?
「…繋いだ時、重なるだろ? その方が、…なんか良いと思って。」
ここは教会ではなく、九条さん家のリビング。
私はすっぴんにパジャマ。
髪の毛はまだ濡れている。
九条さんも緩いTシャツにスウェットというムードへったくれもない。
だけど、私にはここが教会よりも特別な場所に見えたんだ。
少しまごつきながら、指環を第一関節から第二関節へと通す。根元に到達したシンプルなシルバーリングは九条さんの指に良く映えて美しかった。
「玲、手。」
差し出された手に右手を差し出す。手を繋ぐと嵌められた指環が引き付け合うようにくっついた。
それは刻印の意味を表すように寄り添い合っているようにもみえる。
「…ふふっ。」
「何?」
「なにもなーい。」
嬉しくて、幸せでその照れ臭さを隠すように九条さんの肩に頭を預ける。
九条さんはそんな私を不思議そうに見ていたけど、繋いだ手に力を入れると同じように握り返して柔らかく笑ってくれた。
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