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「……ねぇ、どうして一年後、なの?」
今夜はいつもの夜より少し甘い。
それは互いの手に未来を約束したものがハマっているから、だと思う。
抱きしめられた腕の中から少しだけ顔を上げる。もぞもぞと動いたせいか九条さんの腕の力が少しゆるんだ。
「どうしてって、」
本音を言うと
もう少し恋人期間が欲しい。
九条さんは一瞬キョトンとしたものの直ぐに意地悪く微笑んで、指環の嵌った手で私の頬を撫でた。
「明日にでも籍入れる?俺は大歓迎だけど。」
「ちがうっ。そういう意味じゃない。」
「わかってるよ。」
実際一年なんてあっという間だ。結婚式の話もあるし、挨拶とかやることが盛りだくさんで。
そう思うと恋人らしいことできないままドタバタと過ぎていきそう。
それが少し寂しい気もする。
「俺が譲歩できる最大値が一年。それより長くは待てない。」
女性ならまだしも、九条さんは男だ。
子どもが好きとも聞いたことがないし、家庭を持ちたい、というわけでもなさそうなのに
結婚にこだわる必要が分からない。
「なんで?私はもう少し恋人で居たいな。」
「籍いれても現実は何か特に変わるわけないだろ。」
「たしかにそうだけど、」
「男女間における最高の形が夫婦なんだ。紙切れ一枚で法的に玲を守ることができて、全世界に玲は俺のものだって知らしめることができる。これを使わずしてどうする?」
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